お正月に書かせないもち菜、実は小松菜とちょっと違うものなんです。
全国一シンプルと言われている名古屋のお雑煮。たまりしょうゆや白しょうゆがベースの澄まし仕立てのおつゆに角餅と菜っぱのみ、仕上げに花かつおをパラリというスタイルは、味噌を多用し何かと載せがちな名古屋めしのイメージからは想像ができないほどのシンプルスタイルです。
名古屋のお雑煮で唯一の具材となる菜っぱは「正月菜」と呼ばれるものが定番。お正月が近づくと、スーパーの野菜売り場には正月菜売り場がどどーんと登場し、お客さんたちがこぞって買い求めていきます。
一束150円から200円程度で販売されていることが多い「正月菜」ですが、スーパーで手に取ったときにこんなことを思ったことはありませんでしょうか?
「これ、小松菜と何が違うの…?」と。
実は最近のスーパーで販売されている「正月菜」はほとんどが小松菜と同じもの。中身は小松菜のまま、袋だけ正月菜として販売されていることがほとんどです。
しかし、もともと名古屋のお雑煮に入っていた「正月菜」は小松菜ではありませんでした。
名古屋のお雑煮の菜っぱとして伝統的に使われてきたのは「もち菜」。小松菜の近縁種の一つではありますが、一般的に販売されている小松菜とは異なる品種です。ちなみに名古屋のお雑煮にもち菜を入れるのは「名(菜)を持ち(餅)上げる」という家名向上への縁起担ぎの意味が込められていたためと言われています。
もち菜と小松菜、何が違うの?
最近では正月でもほとんど見かけなくなった「もち菜」ですが、名古屋栄・オアシス21にある愛知県のアンテナショップ「ピピっと!あいち」に買い物に出掛けた際にたまたまゲットすることができました。
といいことで、現物の写真を見比べながらもち菜と小松菜の違いを見ていきましょう。
葉が根元から広がるのがもち菜 柔らかいので汁物向き
もち菜と小松菜の最大の違いは「どこから葉っぱが出ているか」。もち菜の場合には茎全体に葉がついており、根元の近くまで葉っぱが広がっています。
茎はやや細めで、小松菜よりもやや緑色が淡い色合い。葉や茎が比較的柔らかいので、お雑煮をはじめとした汁物に向いていると言われています。
葉は茎の途中から出ているのは小松菜 しっかり食感はもともと漬物用として栽培されていたため
一方の小松菜は茎の途中から
一方の小松菜は、もち菜とは違い根元付近には葉がほとんど広がっておらず、茎の途中から楕円状の葉が茎にそって広がっています。根元のあたりの葉の有無を見れば「もち菜」なのか「小松菜」なのか区別ができるということですね。茎も太めで、青々とした緑色も特徴になります。
実は小松菜はもともと「漬物用」の菜っぱとして栽培がはじまったもの。シャキシャキとした食感の良さも漬物にも適するしっかりと太い茎から生まれています。
なぜ小松菜が「正月菜」になったのか?
もともとは「もち菜」が使われていた名古屋のお雑煮。しかし、現在お正月用の「正月菜」として販売されているのはほとんどが「小松菜」です。
その理由は至極簡単。農家にとって「小松菜」の方が栽培しやすく、需要が高いから。
もち菜は小松菜に比べると茎がやや細いため、栽培中に倒れてしまいやすいとのこと。農家にとっては小松菜よりも慎重に育てなければならず、手間がかかるそうです。
また、もち菜は正月のお雑煮の時期にしか需要がありませんが、小松菜は年がら年中需要がある作物。大量に育てても安定して売れるというのは。農家にとってメリットしかない話です。
需要が高く、たくさん栽培されているとなれば、当然品種改良もどんどん進むというもの。さらに栽培技術もどんどん研究が進むとなれば、農家側としてはもち菜ではなく小松菜を栽培する方に傾くのも当然の話です。
ちなみに正月菜はもち菜の別名ではなくあくまで「正月のお雑煮に入れる用の菜っぱ」の通称。その意味ではもち菜も小松菜もどちらも「正月菜」あることにかわりはありません。
今ではすっかり「正月菜」の座を小松菜に譲ってしまった感もある「もち菜」。しかし、現在でも昔ながらのもち菜を栽培している農家はあります。こうしたもち菜は県内各地の農産物直売所スーパーの産直コーナー、「ピピっと!あいち」のようなアンテナショップなどで購入することができます。
年に一度のお正月、尾張伝統「もち菜」のお雑煮で新年を迎えてみるのもおすすめです。