冒頭から質問です。皆さんは「ご当地焼きそば」といえば、どんな焼きそばを思い浮かべるでしょうか?
最初にパッと思い浮かぶのは静岡の「富士宮やきそば」か秋田の「横手やきそば」と言う方が多そうですね。googleで検索すると、この2つに群馬の「上州太田焼きそば」を加えた3つが「日本三大焼きそば」と言われています。他にも全国各地にご当地焼きそばが存在し、バラエティに富んだ焼きそばが全国各地で親しまれています。
しかし皆さん、これらのご当地焼きそばを圧倒する「真の最強ご当地焼きそば」の存在をお忘れではないでしょうか?
そうです。もうお分かりですね。
真のご当地最強焼きそば、それは「名古屋鉄板焼きそば」です。
アツアツの鉄皿の上でジュージューとおいしい音を奏でる麺、香ばしいソースの香りを含んだ湯気、そして麺の上で踊る鰹節(ただし踊っていないときもまぁまぁある)。鉄板の熱でおこげになった麺もまた格別ですね。
味や食感の変化も楽しみながら最後の一口までおいしく食べられるTHEパーフェクトなご当地焼きそば、それこそが「名古屋鉄板焼きそば」です。
「名古屋鉄板焼きそば」が「真・最強ご当地焼きそば」である理由
名古屋人ならあたりまえに食べている「名古屋鉄板焼きそば」、いったいこれのどこが最強なのか。
結論はいたってシンプル。名古屋鉄板焼きそばこそ最も多くの地元店舗で提供されておりご当地焼きそばなんです。
日本三大焼きそばでいえば、富士宮やきそばは富士宮市内ではおよそ130軒が、横手やきそばは横手やきそば暖簾会におよそ30軒が加盟、上州太田やきそばは約40店舗が「のれん会」に加盟していると言われています。
一方、名古屋鉄板焼きそばを提供しているのは名古屋市内だけで少なくとも200店舗以上(筆者調べ)。いわゆる「名古屋エリア」と呼ばれる周辺市町村まで含めればこの倍以上の店舗があってもおかしくありません。
圧勝です。圧倒的です。日本三大焼きそばが束になっても太刀打ちできない普及度を誇っています。優勝です。ありがとうございます。
「名古屋鉄板焼きそば」がご当地焼きそばの文脈から抜けてしまう理由
しかし、ご当地焼きそばの話題になったときに「名古屋鉄板焼きそば」が話題になることはほとんどありません。
それはなぜか。
筆者の考える理由は3つあります。
理由その1:あまりにも普及しすぎて、名古屋人には『あたりまえ焼きそば』としか思われていない
鉄皿の上に焼きそばが載ったスタイルそのものは、少なくとも近年は名古屋に限らず全国的に見られます。
しかし、よく考えてみましょう。他県他地方の「鉄皿載せ焼きそば」はどこで提供されているでしょうか?
そう、「お好み焼き店」ですね。
お好み焼き店の大きな鉄板の上で焼かれた焼きそばを提供する際に鉄皿の上に載せるということは全国的によく行われています。もちろん名古屋でも同様です。
しかし、名古屋人にとって「焼きそばを食べに行く場所」のファーストチョイスは、お好み焼き店ではありません。
名古屋人が鉄板焼きそばを食べたい時に行くお店は「喫茶店」です。
一般的にはモーニングサービスや小倉トーストが注目されがちですが、「喫茶店で定食やランチをあたりまえに食べる」というのも名古屋喫茶店文化の一つの特徴。定食や「鉄板イタリアンスパゲッティ」などとともに「鉄板焼きそば」もまたランチメニューとして数多く見られます。
実際に筆者が調べたところ、名古屋市内の喫茶店だけで少なくとも110店舗以上が「鉄板焼きそば」を提供。これは市内で「名古屋鉄板焼きそば」を提供するお店の半数以上を占めており、他県他地方とは違い「喫茶店を中心とした独自の焼きそば文化」が育まれてきたことが分かります。
最近では居酒屋で鉄板焼きそばをメニューに採用する店も増加。他にも中華料理店やバル、スーパー銭湯、甘味処、さらにはバンテリンドームナゴヤ(ナゴヤドーム)内のフードコートでも鉄板焼きそばが提供されています。これだけ名古屋ではどこにでも見かけてしまえば「鉄板焼きそば」が全国どこにでもあたりまえにあるスタンダード焼きそばだと勘違いしてしまっても仕方が無いことかもしれません。
理由その2:他地域の焼きそばとの違いが分かりにくい
2つ目の理由が他地域の焼きそばとの違いの分かりにくさ。多くの名古屋人も「確かに鉄板には載ってるけど、結局普通の焼きそばでしょ?」と思っていることでしょう。
実は筆者もそう思っていました。
しかしある時、実は「名古屋鉄板焼きそば、めっちゃ特徴あるじゃん!」と気づいたんです。
例えば鉄板焼きそばにつきものの「卵」。名古屋人は鉄板に載っている・載っていないに関わらず「焼きそばに卵」がつきものですが、全国的には少数派。しかも名古屋鉄板焼きそばの場合には目玉焼きではなく、鉄板イタリアンスパゲッティのように「玉子敷きスタイル」で提供されるお店全体の3割ほど見られます。このスタイルになるといっそう名古屋独自色が強まりますね。
また、味付けに使われるソースにも大きな特徴があります。他県他地域の焼きそばに使われるソースはオタフクソースに代表されるとろみのある「濃厚ソース」が主流。しかし名古屋ではコーミソースやカゴメソースに代表される旨味が強くてサラリとした「こいくちソース(ウスターソース)」が主に使われています。とろみのあるソースを麺にまとわせるのではなくさらりとしたこいくちソースを麺に焼き付けるように作るため、香ばしさあふれる仕上がりになります。
麺についてはお店ごとの工夫の余地が大きいものの、全体的な傾向としては細目の蒸し麺が使われることが多い印象。もしかしたらソースとの相性の兼ね合いもあるかもしれませんね。
いずれにしても、「名古屋鉄板焼きそば」はただ鉄板に載っているのでは無く麺・ソース・卵と各所に工夫や特徴があることが分かります。ただ、いずれもぱっと見ただけで分かりやすい特徴ではないため、「ご当地焼きそば」として認知されづらかったということはあると考えられます。
理由その3:「まとめ役・旗振り役」がいない
最後の最も大きな理由は「まとめ役・旗振り役」が存在しないこと。全国各地のご当地焼きそばと呼ばれているところは地域おこしとも密接に関連していることが多く、まとめ役となってご当地焼きそばの普及を牽引する団体があります。
しかし、名古屋では喫茶店を中心として名古屋市内だけでも200店舗以上が鉄板焼きそばを提供しているものの、どこも「鉄板焼きそばをメインとして商売しているわけではない」というのがホンネ。喫茶店での名古屋めしという観点で見ても「モーニング」「小倉トースト」「鉄板イタリアン」は名古屋めしとしてしっかり認知されていても、「鉄板焼きそば」はマイナーな位置づけであると言わざるを得ないでしょう。プレイヤーの数も多すぎるため、一致団結して「名古屋鉄板焼きそば」を普及促進しようという機運になりづらいという側面もあるでしょう。
まとめ役・旗振り役が不在ということは、当然「名古屋鉄板焼きそば」を全国に推していこう!という動きも出てくるはずがないということ。さらに鉄皿を使うが故に「キッチンカー」との相性も悪く、B級グルメのフードフェスなどへ参戦が困難なこともこれに拍車をかけています。
「名古屋鉄板焼きそば」がコナモン100選に選出!
長年に渡り名古屋人に愛され、今でも日本三大焼きそばが束になっても敵わないレベルの普及度を誇っていながら、マイナーな存在を脱脂切れていなかった「名古屋鉄板焼きそば」。しかし2023年秋、「名古屋鉄板焼きそば」が突如スポットライトを浴びます。
2023年10月に行われた「鉄板会議2023全国大会」の場において、「名古屋鉄板焼きそば」が「文化を味わう!コナモン100選」の1つとして選出されました。
鉄板会議2023では、全国から13のご当地焼きそばが「コナモン100選」の焼きそば部門として選出。コナモン100選は将来的な「食の文化財」の候補となるものを選ぶという側面を持っており、全国でも特徴のある焼きそばの一つとして認められたということになります。
真の最強ご当地焼きそば「名古屋鉄板焼きそば」を巡る旅へいざ出発!
ここまで読んでいただいた方は「名古屋鉄板焼きそば」こそが「真の最強ご当地焼きそば」の名にふさわしい焼きそばであることはお分かり頂けたと思います。あとは、このポテンシャルの凄さを名古屋人自身がきちんと気づくだけです。
そこでナゴヤトコトンでは初のシリーズ企画として「名古屋鉄板焼きそばをトコトン巡る旅」をスタートすることを宣言! 名古屋市内だけで200店舗以上、周辺エリアまで含めると星の数ほどある名古屋鉄板焼きそばをとことん食べ尽くし、その魅力をどんどん発信していきます。
「ここの鉄板焼きそばがおいしいよー」「ここに変わり種の鉄板焼きそばがあるよー」といった情報は大歓迎! ぜひ下記ページにある情報提供フォームから情報をお寄せください。
2024年は名古屋鉄板焼きそば元年。名古屋のおいしい鉄板焼きそばをとことん回って食べ尽くします!